「全然思わないわけじゃあないよ。<足>でもっと遊びたかったし、
君の作った花火缶もよく見たかったし。でもね‥」
<足>を作ったゆきだるまは、すこし遠くの方を見ながら言いました。
「ぼくの<足>はさ、きっと元気が余っていて、外の世界を
見たくなったんだと思うんだ。
君の作った缶とくっついてしまったのは、すごい偶然で、
事故みたいなものかもしれないけど‥
でも、ふたりはうまくやっていかれるんじゃないかな。
案外、近くにいて、明日の朝には、東の窓から戻ってくるかもしれないし、
10年後に、ばったりどこかの町で会うかもしれないし。
もしも、誰かが、歩く缶詰をみたら驚くだろうねー。
きっとすごくラッキーなものを見たと言って、
嬉しい気持ちになるだろうね。
なんたって、花火の缶詰だもんね」
(ラッキーで、うれしいきもち‥)
花火缶を作ったゆきだるまは、自分の気持ちが、
落ち着いてくるのがわかりました。
どこかの町や、誰かの家の窓辺を、てくてく歩いている、
花火缶の様子が目の前にありありと浮かびます。
なんだろう?と思って、人々が手を伸ばしたときや、
気がついて、振り向いた時には、花火缶は
もうどんどん先まで歩いているのです。
しあわせの缶詰と思う人もいるかもしれません。
どこに行ったら見られるの?と聞く人もいるでしょう。
ゆきだるまは、にっこりしました。
そして、もしも時間を巻き戻すことができたなら、
さっきの場面を、スローモーションで見たいなあと思いました。
缶がテーブルの上に、着くか着かないかのときに、
隣の部屋からやってきた<足>が、テーブルの上を駈け抜けようとして、
くっついてしまった瞬間の場面です。
「今夜も星がきれいだね」
<足>を作ったゆきだるまが言いました。
花火缶のゆきだるまも、窓から一緒に空を見上げながら、大きな声で
「おーい、今頃どこにいるんだーい?」と言いました。
「いつでも簡単に見られる花火の缶詰」が、
「歩く花火の缶詰…walking fireworks can…」になったのは
理由があったのでした。
おしまい