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Pancake of Full Moon on silent seaface
海に映った満月のパンケーキ



日曜日の楽しみは、パンケーキを食べることだった。

ママが焼くパンケーキは、きれいな丸ではなかったけれど、
おたまでタネをすくい、フライパンに広げたあとに
おたまの「背中」で、生地を伸ばしているママは
とても楽しそうだったし、次々焼けてくるパンケーキからは、
いい匂いがしていて、すこしくらいゆがんだ丸でも、
ママも私も全然気にならなかった。

あるとき、友達の家で、ホットケーキをごちそうになり、
それがふっくらと膨らんでいることに驚いた。
帰ってきてママに言うと、ママは「だから?」という顔をして
そのホットケーキにはメイプルシロップがかかっていた?と、逆に聞いてきた。

ホットケーキ。
私も、ずいぶん大きくなるまで、フライパンで作るのは
ホットケーキなんだと思っていたの。でも、パンケーキを知ってからは、
絶対にこっちの方がおいしいと思う。
そうママは言った。

ハムや野菜やチーズを巻いて食べたあと、最後の1枚は
必ずメイプルシロップをかけて食べるのが「ママ流」の食べ方だ。
だから、家の冷蔵庫には必ずいつもメイプルシロップが入っていた。
混じりけなしの100%ピュアなやつ。


‥    ‥    ‥    ‥


運ばれてきたパンケーキは、型に入れて焼いたものではないと、一目でわかった。
ママが作ったそれみたいに、縦よりも横がすこしだけ長い、まるの形。

「海に映った満月のパンケーキ」

メニューにそう書いてあったので、まんまるのお月さまと同じ、
きれいな丸を思い浮かべていたけれど、
なんだ普通のパンケーキみたいね‥

そう思いながらフォークとナイフを手に取り、私のテーブルから
離れていくウエィターの背中を見た。
そこには、メニューがプリントされていた。

Pancake of Full Moon on silent seaface

ぱんけいくおぶふるむーんおんさいれんとすぃふぇいす

私は、声に出さずに読んでみて、その光景を思い浮かべ、
そしてはっと気がついた。

夜空の完璧な満月と、海に映ったもうひとつの満月。
すこしの風に海面が揺られ、映ったほうの月は
どうしたってゆがみ、完璧な丸ではいられない。

だから、このパンケーキは、型を使って焼いていないにちがいない。
(ママの焼いたパンケーキと一緒だよ。)
私はいつものように、4つに切り分けてから、
シロップを注意深く、均等にかけた。






このお店の名前は、SUBMARINE DINER 
きびきび動くスタッフは、お揃いのTシャツを着ています。