その料理がテーブルに運ばれてきたら、 もう仏頂面をしているのが難しかった。 ほんとは、その前に、お店の人がキャンドルをテーブルに 持ってきてくれた時点で、それまで不満に思っていたことは すっかりそのナリを潜めていたのだけれど。 ランチの約束を、Kはたびたび忘れるが、そのお詫びに Kが企画することは、結構気がきいていた。 だから私は、いつもほんとはそんなに怒っていないのだった。 フォンデュ鍋の中で、チーズはいい匂いをさせて とろっとろに溶けていた。 なるほど、なるほど。 海底火山がどんなものかは知らないけれど、 ぐつぐつした感じは、火山のイメージだ。 「パンのお代わりのときはいつでも呼んでくださいね」 そう言ってくるりと後ろを向いたウエイトレスの首筋で、 きれいに揃った髪がゆれて、彼女が着てるTシャツの背中には、 その店のメニューがプリントされている。 Fondue Ocean Volcano Style 熱々のチーズをからめたパンを食べて、パンを食べて、パンを食べて。 冷たい、グラスの水を飲んで、テーブルの上のキャンドルを ちらっとみて、またフォークにパンを挿し、チーズの中へ。 私の顔は、向かいに座っているKの顔と同じように、 どこもかしこも緩んでいるにちがいない。 このお店の名前は、SUBMARINE DINER きびきび動くスタッフは、お揃いのTシャツを着ています。 |
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